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2022年10月13日、静岡県・小山町でツアー客を乗せた観光バスの横転事故が発生しました。この事故で乗員1名が死亡、35人がけがをしました。
この事故の原因は、フェード現象と呼ばれる摩擦ブレーキを連続使用した結果、ブレーキの効きが低下した現象の可能性があると言われています。
フェード現象は急にブレーキが効かなくなるため重大な事故に直結する、非常に恐ろしい現象です。
そこで今回はフェード現象が起きる原因、予防と対策について解説します。
フェード現象とは下り坂などでフットブレーキを連続して使いすぎると、走行中にブレーキが利かなくなる現象です。ブレーキを使いすぎると(ブレーキパッド、ブレーキシュー)摩擦材の素材であるゴムや樹脂などが耐熱温度を超えて分解・ガス化します。これがブレーキローターとの間に入り込むことで摩擦係数が低下し、ブレーキの効きが悪くなります。
図版出典:
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-construction/subcategory-structure/faq075
とくにバス・トラックに多く使用されているドラムブレーキは摩擦剤(ブレーキシュー)の設置面が大きく、フェード現象が起きやすくなっています。
フェード現象と同じくフットブレーキを使いすぎることで起こるものとしてべーパーロック現象があります。これはブレーキ時の摩擦熱により「気泡」が生じ、それが原因でブレーキが効きにくくなる現象です。フェード現象の要因が摩擦材に対して、ベーパーロック現象の要因はブレーキフルードにあります。
冒頭でも記述しましたが、フェード現象が起きる大きな要因は「フットブレーキの多用」にあります。通常のブレーキは、ブレーキパッドをブレーキローターに押し付けて、運動エネルギーを摩擦熱に変えることで車を停止させます。長い下り坂を走行中はブレーキペダルを連続使用してしまうため、負荷がかかり過ぎてしまうのです。
これを防ぐためには主に3つのポイントがあります。
エンジンブレーキとはエンジン回転の抵抗を利用した減速方法のことです。踏み込んでいるアクセルペダルから手前に戻すだけでエンジンブレーキの効果を得ることができます。ギアを低くすることでエンジンブレーキの制動力を強めることができます。
トラックは普通乗用車よりも車体が大きいためさらなる注意が必要です。過積載をすると重量バランスが悪くなるため車両に大きな負担がかかり、制動能力が大幅に低下します。フェード現象が起こりやすくなるため必ず最大積載量を守りましょう。
ブレーキに異常が起きていないか定期的に点検しましょう。ブレーキオイルは規定の量あるか、液が濁ってはいないかなど、2年に1回または走行距離2万キロごとに交換するのがおすすめです。
気をつけて運転していてもフェード現象が起きてしまうことはあります。こうした時、まずは落ち着くことが大切です。ブレーキの効きが悪いと感じたら安全な場所に車を停めて、30分ほど時間をかけてブレーキの熱を下げましょう。制動力を回復させることができます。
※エンジンの効きが悪くなった場合は基本、走らないのが原則です。走りながらブレーキの回復を待つのはやめたほうがよいです。また、高速道路ではバス・トラックは排気ブレーキを使うことで、フットブレーキを使わないで走ることができます。
参照記事↓
長い下り坂で、スピードを抑えるために主としてフットブレーキを使用しながら走行しているうちに、フェード現象やベーパ・ロック現象を起こしてブレーキの効きが悪くなり、赤信号で停止している車に追突したり、減速しながら走行している前車に追突する、あるいはスピードが出過ぎているために、下り坂の途中のカーブを曲がりきれずに路外に逸脱するなどが典型的な事故といえます。
上記で挙げたフェード現象とペーパーロック現象は坂道で起こりやすい事故のパターンですが、もう一つ気をつけなければならないことがあります。それは「坂道での駐車」です。
坂の途中に駐車し、運転者が配達のためにトラックを離れている間に無人のトラックが動きだし坂を下りはじめ、踏み切りや家屋に突っ込んだり他の車両に衝突するという事故が起きています。
この原因はサイドブレーキの引きの甘さにあります。トラックは重量が重いので勾配があるところでは、ちょっとしたことで動き出してしまう危険性があるため、できるだけ坂道での駐車は避けるようにします。やむを得ず駐車しなくてはならない場合には、必ずエンジンを切るとともに(エンジンをかけたままだと、エンジンの振動で動きだすことがある)、駐車ブレーキを確実に引くようにします。駐車ブレーキをしっかりかけるだけでなく、タイヤストッパー(車輪止め)を使用することも大変重要です。
下り坂を走行中にフェードが発生しブレーキが効かなくなった場合の最後の選択肢
使用することのないよう、点検・整備、そしてフェード現象を起こさない運転を心がけましょう。
最近ではブレーキ性能が上がったことでフェード現象は起こりにくくなってはいると言われていますが、普段からフットブレーキを多用しない運転を心がけることでいざという時の事故を防ぐことができます。エンジンブレーキも上手に活用し加速しすぎないようにします。悲惨な事故を引き起こさないために日頃から安全運転の意識を持ってブレーキの使い方を見直しましょう。