一般的にクリーンルーム(clean room , CR)とは、空気清浄度が確保された部屋のことを言います。
企画であるJIS Z 8122では、コンタミネーションコントロールが行われている限られた空間であって、空気中における浮遊微小粒子、浮遊微生物が限定されて清浄度レベル以下に管理され、また、その空間に供給される材料、薬品、水などについても要求される清浄度が保持され、必要に応じて温度、湿度、圧力などの環境条件についても管理が行われている空間と定義されています。
重要であることは、クリーンルームの空間に供給される材料、薬品、水などについても要求される清浄度が保持される必要があり、工場移転や新設などによって大型機械を運搬し搬入するのにも、細心の注意が必要ということを指します。
◆様々な産業で必要不可欠なクリーンルーム
それでは、クリーンルームはどのような分野で活用されているのでしょうか。それほどの洗浄度を求められるものでなければ、クリーンルーム等は基本的には必要はないはずです。ですが、専門的な観点から紐解いてみると、工業分野に限らず、製造部門においてのクリーンルームの存在は近年益々重要度が増しつつあります。
◆工業用クリーンルーム(industrial clean room, ICR)
例えば、工業用で考えるだけでも以下の多くの製造工場で必須となっています。これは集積回路の焼付け工程において、塵埃が隣接する回路との短絡、あるいは欠損を引き起こし不良が発生するため、清浄空間での作業が必要とされるからです。
このような工業品の製造工程で用いられるクリーンルームを工業用クリーンルーム(industrial clean room, ICR)と言われています。
◆バイオクリーンルーム
主としてバイオテクノロジーの分野で用いられるクリーンルームをバイオクリーンルーム(biological clean room, BCR)と言います。バイオに関する研究や製造がメインとなるため、主に空気中の浮遊微生物の管理が重要となります。
◆医療用途
入院や手術を経験された方は記憶にあるのではないでしょうか。手術室はもちろん、病室も基本的に清潔に保たれています。病院の中でも、手術室、医薬品や化粧品の製造所(の一部)、滅菌医療機器の製造所や滅菌室などがクリーンルーム化されています。塵埃を排除すれば細菌類も排除できるため、手術室などを清浄化すれば細菌に起因する汚染を予防できるという考え方に基づいているからです。
空中浮遊菌数と空気清浄度の5.0 µm 以上の粒子数はおよそ比例傾向(絶対評価ではない)にあることが多いため、クリーンルームとして空気中の浮遊微粒子数を制御しています。ただし、細菌類は単純に空気清浄度のみ制御すれば抑制できるものではなく、定期的な殺菌消毒やクリーンルームの運営方法、人員の入退室方法を適切に管理する必要があるので非常に大変な運用作業です。
近年では殺菌消毒を行っても2時間程度で再度菌が発生することが確認されているため、殺菌消毒の必要性を疑問視する声が多いことが現状です。
◆食品用途
近年では食品に関する異物混入の問題が顕在化されており、社会的にも最も注目を集めている分野の一つです。細菌を含め、異物、虫などの混入が許されない環境で食品製造を行うことが品質確保の面で必要な場合に、調理場や製造ラインをクリーンルーム化する場合があります。
◆ハザード
放射性物質が外部へ流出しないよう、また、遺伝子組み換えなどの実験が行われる場所での排気を通し、外部に有害物質が持ち出されることのないよう、排気の塵埃を除去する場合がある。厳密にいえば、「中が汚れていても、外部を汚さない」という点で通常とは逆のクリーンルームの考え方となりますが、基本的に構造上同じ設備を逆向きに設置することとなります。生物的なハザードという意味で、バイオハザードルームと呼ばれたりします。
◆室内をクリーン化するための構造
それでは、具体的な構造をみていきましょう。クリーンルームは全体的に大きく「給排気システム」と「建屋」に別れます。
◆給排気システム
空気中の塵埃を除去するため、建屋内で閉鎖された構造の区画に超高性能エアフィルタ(HEPA、ULPAなど)を通じて空気を送り込み、排気経路から流出する空気を建屋外に排気または建屋内で循環させる給排気システムを備えています。給排気システムは用途に応じて気流の制御が行われ、一方向流式、非一方向流式があります。
◆一方向流
押出形式とも言われ、気流が部屋全体で一定の方向に流れていく気流の方式です。塵埃は気流に沿って押し出されるように除去され、レベルの高い清浄度が得られます。さらに、天井吹き出しで床面一体の吸い込みの垂直流と、壁面吹き出しの逆壁面の吸い込みの水平流に分類され、層流と呼ばれることもあるが、流体力学等で用いられる層流とは意味が異なります。
◆非一方向流
混合形式とも言われ、気流が部屋の中で複雑に流れていく気流方式です。塵埃はクリーンルーム内で清浄空気によって希釈される形で排除されます。換気風量は必要な清浄度と換気回数(換気風量を室内容積で割った値)によって決められます。一方向流方式と比べ清浄度は低いが、コストの点でメリットがあるため広く用いられる方法です。
給排気システムでは室内の圧力管理も行い、外部からの塵埃の流入を防止するため、室内気圧を外気圧より5~10 Pa程度大きくし陽圧とします。ただし、ハザード用途の場合は室内気圧を外気圧より若干下げ、陰圧とします。
冷暖房も必要となり、特に電子工業用途では露光装置の寸法精度を確保するため、温度・湿度の管理が必要不可欠となります。
◆建屋
クリーンルームでは内部での塵埃の堆積防止、清掃の容易性、フィルタ交換の維持管理の容易性や大小様々な機器の搬出搬入を想定し、建屋の構造にも考慮が充分必要があります。
給排気システムが一方向の垂直流式では、作業室床がダウンフローの気流を透過するグレーチング構造になっており、作業室下の階下に塵埃を落下させる構造になっています。
また、特に清浄を要求される小さな領域をビニールカーテンなどで覆って清浄度を上げる工夫も行われる。外部との入退室には、2つの扉の間に清浄空気によるエアシャワー設備を置いた二重扉の出入口を設けます。更衣や材料の準備などを行うために前室が設けられることがあり、火災などの発生時には非常口が設けられている場合もあります。
◆室内をクリーンに保つための運用
様々な工夫により構成されたクリーンルームですが、運用がしっかりとされていなければ全く意味を持ちません。それでは、環境をクリーンに保つための運用面を見て行きましょう。運用においては、以下の3つのポイントがあります。
◆運用における原則
正常空間を作り、維持するための条件として以下の原則が挙げられます。
◆入退出
人間は衣服や人体そのものから大量の塵埃を発生させるので、全身を覆う専用のクリーンウェア(防塵服・無塵服)やマスクを着装し、二重扉の出入口で清浄空気の(エアシャワー)を浴びて塵埃を落としてから入室します。又、出入口の床には粘着マットが敷かれ、靴底や装置下面の塵埃を除去します。 物品の搬入もドアの開閉時の外気からの塵埃流入を防ぐため、パスボックスを用い二重扉の間でやり取りをします。
◆用具
クリーンルーム内では塵埃の発生はタブーであるため、使用できる用具には特殊なものが用いられます。
紙はわずかな繊維も塵埃となるため、発塵を抑えたクリーンペーパー(無塵紙)というものを使用します。また、鉛筆やシャープペンシルの芯から発塵するため使用不可であり、持ち込みが禁止される場合が多く、ボールペンもノック式ではなくキャップ式を用いることがあります。
清掃も、水道水や洗剤を用いると水分蒸発後の残留成分が塵埃となるため、テフロンワイプを超純水やエタノールで湿らせて拭き取ることが多いです。防塵服の洗濯は、専用の洗剤を用いて、他のものと分けた防塵服専用の洗濯機で行います。
◆クリーンルームで求められる資格
クリーンルームで業務を行うために必要とされる資格とはどのようなものなのでしょうか。クリーンルーム内での作業や取扱・管理業務には、規模・用途に応じた資格とされることがあります。
特に半導体プロセスでは、材料ガスとして常温常圧で自然発火するシラン、ホスフィンのほか、水素、高純度酸素等が用いられるため、火災・爆発には注意が必要です。
また、これらのほかにも不活性ガスの窒素、アルゴン等も用いられ、すべてのガス類がすべて低温の液体として保存されるため、高圧ガスの取り扱いに関する注意が必要あり、他に洗浄工程、加工工程で強酸、強アルカリを使用するので、これらも注意が必要となります。
◆クリーンルームの搬出入において、注意すべきポイント
これだけの設備と運用により絶対的に安全性が守られているクリーンルームですが、事情により内部にある精密機械や大型機械の搬出や搬入が必要になった場合はどうするのでしょうか。これまでの情報から以下の通りまとめられます。
◆クリーンルーム内での作業で強力なエアモジュール
小さいものでも数t、大きい物になると数十tにもなる精密機械、それらを運ぶための運搬技術としてエアモジュールが注目されています。例えば、それだけ大きな機械を運搬するためには、その為にまず機械を持ち上げるための機材が必要です。一般的にはギアなどがついたジャッキで持ち上げますが、ギアにはそれらを円滑に作動させるための油を必要とし、作業中に飛翔による汚れや粉塵など、クリーンルーム内に余計な汚れを持ち込む原因とも考えられます。それらを解決する為、エアモジュールが活用されるのです。エアモジュールはいわばホバークラフトのようなもので、空気の力によって大型機械を持ち上げます。いわゆる浮遊させた状態で搬出口まで移動させるのです。この方法であれば、大型の機械でも数人のチームで搬出することが可能になります。これは、様々な重要機械や設備で囲まれば、限られた空間での作業を迅速にこなすことにとっても重要な役割を果たします。
◆クリーンルームに精通した技術者が必要
想像してみてください。例えば、非常に高価な機器や、劇薬と言われる薬品が並んでいるクリーンルーム内に、全く知識を持たない人が作業員として動き回られたら…その場の責任者であるアナタはどうでしょうか。専門的な運搬に限らず、全般に言えることですが、小さなミスが大きな事故につながることが常です。それが、非常に緻密な空間として構成されたクリーンルームであれば尚更です。先に挙げさせて頂いた様に、クリーンルームでの作業においては、様々な資格が必要とされ、それらが密接に関わりあっています。運搬においても、リーダーがしっかりとお客様と念密な打ち合わせをして、その環境に適したチームを配属し、迅速な作業を行うことが常に必要とされています。
いかがでしたでしょうか。「ものづくり」日本として、戦後から21世紀を迎えた今でも、国内の産業をクリーンルームの技術が影で多大な貢献を行い、その運用には最新の注意が払われています。より安全な運用を目指す上でも、将来的なリスク予測やそれらに基づいた設計、ルール化などをはじめ、運搬技術の向上も益々日本では求められてきているのです。